補綴前の矯正
補綴前の矯正
矯正治療は、単に歯並びを整えるだけでなく、噛み合わせを改善することで、生涯を通じて自分の大切な歯をできるだけ多く、長く維持するための最も効果的な予防歯科治療です。
噛み合わせが正常に整うことで、歯や顎にかかる負担が軽減され、虫歯や歯周病のリスクを低減するだけでなく、歯の寿命を延ばすことが期待されます。
適切な矯正治療により、歯と歯茎の健康が守られ、長期的な口腔の健康維持に繋がることから、予防的な観点でも非常に有効な治療です。
そのため、矯正治療は50代以降から始める方も増えています。
最近では当院にて70代の方の矯正治療を行なった症例もございます。
理由としては「歯並びに対するコンプレックスの解消」もありますが、「予防」と「将来への備え」など健康管理の一環として取り組み始める方も多くいらっしゃいます。
口腔内の環境は年齢と共に変化しますので、最適に保つために根本から歯の環境を整えることができる矯正治療は、大変効果的なお口の健康対策と言えます。
補綴(ほてつ)治療とは、自身の歯がない部分や欠けた部分に人工の歯を入れる治療です。虫歯や歯周病、外傷などによって歯を失った場合に、人工物で歯を補う治療法です。歯の形態を整え、噛む、話す、飲み込むなどの機能を回復・維持させることを目的としています。
主な方法には「入れ歯(義歯)」「ブリッジ」「インプラント」があります。入れ歯は取り外し可能な義歯、ブリッジは複数の歯を一体化した橋状の装置、インプラントは歯槽骨に人工歯根を植えて歯を作る方法です。
詰め物・被せ物
入れ歯
ブリッジ
インプラント
補綴治療を行う際、人工歯を入れる部位に関連する歯(隣接歯や対合歯)を事前に適切な位置に移動させることで、補綴治療の効果を高めることができます。
例えば、ブリッジを装着する際、隣接歯が傾斜していると、その歯を支台として適切なブリッジを作ることが難しくなります。さらに、傾斜した歯に過度な負担をかけると、その歯の寿命を縮めてしまう可能性があります。
このような場合、事前に矯正歯科治療で隣接歯の傾斜を修正しておくことで、咬合力をしっかりと支えられる良質なブリッジを作製することができます。
多くの歯を失うと、必然的に口腔内で補綴物が占める割合が高くなります。
特に入れ歯(義歯)、ブリッジなどの補綴物はご自身の歯ではありませんので、噛む力は弱くなります。噛む行為は脳の血流に関係していることが近年の研究で明らかになってきました。脳の血流が悪いと学習能力が低下し、認知症悪化の原因ともなります。
近年の研究によれば、歯周病菌が血流に乗って脳にまで到達し、アルツハイマー病の発症リスクを高める可能性が指摘されています。歯周病は口腔内だけでなく、全身の健康に深く関わる疾患であり、適切な対策を講じることが非常に重要です。
歯周病菌が脳に侵入すると、脳内で炎症反応を引き起こす可能性があり、これが神経細胞の損傷や認知機能の低下に繋がるとされています。したがって、歯周病を予防し、早期に治療することは、脳の健康を守り、アルツハイマー病のリスクを低減するためにも重要な役割を果たすといえます。
なるべく多くご自身の歯を残せるよう、今の時点でしっかりと予防歯科対策をすることが、老後のQOLを左右します。
補綴物を挿入する際に、あらじめ歯列を整えることで、欠損部分のスペースを確保し、理想的な補綴物のスペースを確保することができます。その結果、歯を削る量やリスク最小限にできます。
ご自身の残りの歯への負担を減らし、守るためにも大変効果的です。
不正咬合(噛み合わせの悪い状態)は歯周病のリスクを高める主な要因の一つです。
歯列矯正で歯並びを整えることにより、歯周組織の健康状態が改善され、結果として補綴治療の長期的な成功率を高めることができます。
歯列矯正は機能面のみならず、審美面でも重要な役割を果たします。歯並びが整うと、若々しく見えます。肌が見た目年齢に与える印象が−7歳に対し、口元が美しいと−7.5歳の印象を与えると言われていますので、実はお顔の中でも最も重要なパーツです。
また、挿入した補綴物もより自然に見えるため、患者さんのご自身の満足度が向上します。
適切な歯列矯正と補綴治療の組み合わせは、長期的な口腔の健康維持に大きく貢献します。この相乗効果により、単に歯並びを整えるだけでなく、口腔全体の機能と美しさを最適化することができます。
正しい咬合関係と整った歯列は、将来的な歯科トラブルのリスクを軽減し、口腔機能の安定性を確保します。さらに、この適切な治療の組み合わせは、歯周病や顎関節症などの口腔疾患の予防にも効果的です。
また、整った歯列は口腔衛生の維持を容易にし、虫歯や歯周病のリスクを低減させます。これにより、将来的な歯の喪失を防ぎ、健康的な口腔状態を長期にわたって維持することが可能となります。
噛み合わせが正常に整うと、咀嚼効率を大幅に向上させ、食物の消化プロセスを最適化します。これにより、消化器系全体の健康に良好な影響を与えます。
適切に噛み砕かれた食物は胃腸での消化が容易になり、栄養素の吸収効率が高まります。また、よく噛むことで唾液の分泌が促進され、口腔内の自浄作用が高まるとともに、消化酵素の働きも活性化されます。
結果として、胃腸への負担が軽減され、消化不良や胃酸の逆流などの問題のリスクが低下します。このように、歯列矯正による適切な咬合の獲得は、口腔内の健康だけでなく、全身の健康維持にも重要な役割を果たしているのです。
食事をする際、しっかりと咀嚼することで、交感神経と副交感神経がともに活性化されますが、特に副交感神経からは唾液腺へ信号が送られ、消化酵素を豊富に含む唾液が多量に分泌されます。この唾液は食物を効率的に分解し、消化プロセスを助ける役割を果たします。
さらに、副交感神経が活性化すると、胃や腸においては胃液や消化液の分泌が促進され、蠕動運動が活発化します。これにより、消化・吸収の準備が整い、食物はスムーズに消化されやすくなります。
十分に咀嚼することは、単に食物を細かくして胃の消化を助けるだけでなく、脳へ多くの感覚情報を送り、消化・吸収・排泄の全体的なプロセスを円滑に進めるためのシステムを活性化する重要な役割も担っています。
補綴治療のための歯列矯正は、単なる選択肢ではなく、多くの場合において補綴治療の成功と長期的な口腔健康のために不可欠な要素です。
当院では患者さま一人ひとりの口腔状況を慎重に評価・診断した上で、適切な治療計画を立て、理想の治療結果をご提供いたします。