
治療期間を考慮したアプローチ
治療期間を考慮したアプローチ
治療期間を考慮したアプローチとは、「歯を削ったりせず歯を動かすことにより、その人のニーズにあった期間で治療すること。そのための方法として従来の矯正法にさまざまな治療法を併用した矯正法」と定義されています。(スピード矯正研究会より引用)
従来の矯正治療は、固い骨に囲まれている歯をゆっくり動かすため、治療に長い期間がかかります。個人の歯や骨の状態、治療方法にもよりますが、通常は2〜3年以上かかります。
一方で治療期間を考慮したアプローチは、外科アプローチなどによる歯の動きの加速化とそれをタイミング良く組み込んだ治療計画の両方を同時に使いこなすことにより、従来の矯正治療期間を1/2〜1/4に縮める治療法です。
コルチコトミーやピエゾシジョンという外科的手術をすることでRAP現象を起こし、歯が早く動くようにいたします。その結果、治療計画自体を短くすることが可能となります。
一般的に、矯正装置を装着すると伴う口腔細菌叢の変化による虫歯、歯周病のリスクが大きく上がります。しかし、矯正治療期間が短縮されるため、口腔細菌叢の変化が短期に抑えられること、また、装置が外れると虫歯、歯周病菌の低下が起きるため虫歯、歯周病の予防につながります。
以上の方は禁忌になってしまうため適応できません。
治療期間を考慮したアプローチの中でも様々な手術方法があるため、エビデンスレベルが十分な方法に絞って説明します。
矯正治療の便宜抜歯もまた治療期間を考慮したアプローチの1つとしてよく利用されます。
抜歯により骨が傷ついた部分は、生理的な治癒機構が発生します。これをRAP(Regional Acceleratory Phenomenon)効果と言われ、RAP効果が効いている間は歯の移動速度が大幅に向上します。治療期間を考慮したアプローチは全てこのRAP効果を利用して治療期間をコントロールする治療法になります。
コルチコトミー(Corticotomy)
歯茎を切開し、フラップ(歯茎を開くこと)を行い、歯槽骨の表層部分である皮質骨の一部を切除し、器具を用いて内側にある海綿骨にヒビを入れます。
ヒビを入れた骨の自然治癒力と矯正装置を利用することで従来の矯正よりも短期間で歯を正常な位置に動かすことが可能です。
メリットとしては、歯の動きを加速化させる期間を最も長く維持できるため治療期間の短縮が大きく見込める点です。
しかし、デメリットとして大きく歯茎を切開し開くため、外科的侵襲が大きい(患者様の身体に負担がかかる)ことが配慮すべき点です。
PAOO(骨移植併用)
(Periodontally Accelerated Osteogenic Orthodontics)
PAOOとはコルチコトミーと歯槽骨への骨移植を組み合わせた治療法です。
手術の流れはコルチコトミーと同様に歯茎を切開してフラップを開き、骨に切開を加えた後に、骨の表面に骨移植材料を填入します。その後、歯茎を非吸収性の縫合糸で閉じ、術後約2週間で抜糸を行います。
必要に応じて非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)以外の鎮痛剤を処方します。また、術後はペニシリン系抗菌薬を5日間程度投与します。
この方法は、歯の移動速度の促進と骨移植により骨の厚みを増すことで歯槽骨が強くなり、歯の移動可能範囲が広がる、歯肉退縮を予防できるなどのメリットがあります。
デメリットは、外科的侵襲が大きい、費用が高額になる点です。
コルチシジョン(Corticision)
フラップレス(歯茎を切開して開く必要がない)で行うため、外科的侵襲が比較的小さい方法です。
麻酔後に直接歯茎の上から歯と歯の間にメスを入れていき、骨ノミで叩いて内側にある海綿骨にまで達したら抜きます。この作業を数回行います。術後は上記の外科処置と同様に抗菌薬、鎮痛剤を処方します。
コルチシジョンは、低侵襲のため術後の出血もわずかで痛みや腫れが少ない点は患者様にも取り入れやすく、治療期間を考慮したアプローチの外科処置の主流になりつつあります。
デメリットは、コルチコトミーなどの大きな外科処置に比較すると歯の動きを加速させる期間が少ない点です。それでも治療期間は大きく短縮することが見込めます。
ピエゾシジョン(Piezocision)
コルチシジョンと同じく、フラップレスで行う方法です。
麻酔後にメスで切開を加えてルートを確保してから、ピエゾナイフ(圧電ナイフ)を内側の海綿骨に刺入します。切除と同時に骨に振動を与えることにより、骨代謝を高めます。
コルチシジョンと同様に外科的侵襲が小さい点がメリットであり、骨振動が加わる分コルチシジョンよりも加速効果が見込めます。
MOP(Micro-osteoperforation)
MOPは歯科矯正用アンカースクリューを用いて、歯茎の上から小さな孔を開ける方法であり、微小骨穿孔術とも呼ばれます。
処置は、通常の歯科矯正用アンカースクリュー埋入時の手順と同じになります。麻酔後にスクリューを入れていき、海綿骨にまで達したら逆回転で抜き取ります。これを数箇所行い、骨修復による歯の移動を加速化させます。
治療期間を考慮したアプローチの外科処置の中では最も外科的侵襲が小さく、安全で、簡便に行えるため、最も取り入れられている方法です。処置時間も20-30分と比較的早く終わります。
「顔面骨」に外科的アプローチが行なわれると、骨の代謝が促進されることで、RAPと呼ばれる現象が生体に生じます。この外科的処置を治療計画に内包すること計画自体を短くいたします。RAP現象のアドバンテージを治療に活かせるかは、術者の技量に依ってまいります。
外科的アプローチの際には「ピエゾサージェリー」という超音波振動ツールを利用いたします。軟組織への損傷を抑えながら、骨切りを行うことが可能で、その精度と安全性の観点から当院では導入をしております。
バイブレーション
バイブレーションとは、歯周組織や歯を振動させることにより、歯周組織や骨組織の再生修復を早めることが期待されている装置です。毎日5-20分ほど口に咥えて使用します。メリットとしては、装置を咥えるだけなので外科的侵襲が生じない、簡単に取り入れやすい点が挙げられます。
しかし、実際の効果については未だに様々な報告があり確実な効果が期待できるかが検討中である点がデメリットと言えます。
参考文献
1. *Alansari S, et al., The effects of brief daily vibration on clear aligner orthodontic treatment, J World Fed Ortho 2018*
フォトバイオモジュレーション(Photobiomodulation therapy)
フォトバイオモジュレーションはPBMとも呼ばれ、レーザーやLEDなどの光を当てて、歯根周囲の骨を刺激し、歯の移動を促進させる方法です。
毎日光照射用装置を口にくわえて上下5分ずつ照射します。
近赤外波長(850nm)の治療用光は歯茎粘膜や骨を透過し、細胞のミトコンドリアに吸収され、ATP(アデノシン三リン酸)やROS(活性酸素)、NO(一酸化窒素)が影響を受けます。これにより、骨の再生修復を促します。