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こんにちは、赤坂矯正歯科 院長の黒岩です。
「リテーナーって、いつまで着けるんですか?」
矯正治療の終わりが見えてきた患者さんから、必ず聞かれる質問です。
その気持ちはよく分かります。長い治療を終えて、やっと装置から解放される——そう思ったところに、また別の装置の話が始まるのですから。
ですが、はっきりお伝えしたいことがあります。
リテーナー(保定装置)の重要性が伝わらないまま治療が終わった方が、数年後、再治療の相談にいらっしゃいます。
これまでの記事で、再治療になる原因を2つお話ししてきました。
治療ゴールの設定ミス(「綺麗な出っ歯」の話)と、原因を残したままの部分矯正(過蓋咬合の話)です。
今日はその3つ目、「保定の軽視」の話をします。
【この記事のポイント】
- 矯正で動かした直後の歯は、周りの組織がまだ安定しておらず「戻ろうとする力」がかかっている
- リテーナーは「おまけ」ではなく、治療結果を守るための治療の一部
- 後戻りは自覚しにくく、気づいたときには再治療が必要なレベルになっていることがある
- 後戻りの原因はリテーナーだけではない——原因を残した治療も後戻りしやすい
- 装着をやめてしまった・後戻りが気になる場合は、早い段階での相談が選択肢を広げる
動かした歯は、なぜ元に戻ろうとするのですか?
まず、大前提からお話しします。
矯正治療が終わった直後の歯は、まだ「その場所に慣れていない」状態です。
歯は、骨に直接くっついているわけではありません。歯の根っこと骨のあいだには、歯根膜(しこんまく)という繊維の層があり、歯はこの繊維によって骨につなぎとめられています。
矯正治療は、この繊維と周りの骨が少しずつ作り替えられることで歯が動く仕組みです。
そして、治療が終わった直後。
歯は新しい位置に並んでいますが、繊維はまだ引き伸ばされたゴムのような状態です。周りの骨も、新しい位置で固まりきっていません。
つまり、動かした直後の歯には、常に「元の位置へ戻ろうとする力」がかかっています。
この力から治療結果を守るのが、リテーナー(保定装置)です。
矯正治療は「動かして終わり」ではなく、「動かした位置で安定させて終わり」。
リテーナーはおまけではなく、治療の一部なのです。
リテーナーをやめた歯には、何が起きていますか?
「少しくらいサボっても大丈夫だろう」
そう考えて装着をやめてしまう方は、正直、少なくありません。
厄介なのは、後戻りが静かに進むことです。
痛みはありません。1日、1週間の単位では、見た目の変化にもほとんど気づきません。
気づくのは、ある日ふと鏡を見たとき。あるいは、久しぶりにリテーナーを着けようとして「入らない」と気づいたときです。
リテーナーが入らないということは、歯がもうその位置にいない、ということです。
実際、当院の初診相談には「一度矯正したのに、また歯並びが崩れてきた」という方が繰り返しいらっしゃいます。
来院時に伺う言葉は、さまざまです。
- 「リテーナーは2年使ったので、もう卒業したと思っていました」
- 「引っ越しのときに失くして、そのままになっていました」
- 「学生の頃は着けていたんですが……」
前回の治療からの経過年数も、2年という方から15年という方まで、実に幅広い。
ただ、共通していることがあります。
拝見した時点で、数ヶ月の手直しで済むレベルではなくなっていることが多いのです。
ご本人が気にされているのは前歯のガタつき(叢生:crowding)の再発でも、診てみると奥歯の噛み合わせ(臼歯関係)から崩れているケースが少なくありません。
この場合、部分的な再矯正では対応できず、全体矯正としての再治療になることがほとんどです。装置は、非抜歯で対応できる場合はワイヤー矯正またはマウスピース型矯正装置、抜歯が必要な場合はワイヤー矯正を選択することが多くなります。
再治療の期間は、後戻りの程度にもよりますが、1年半〜3年かかるケースも少なくありません(個人差があります)。
お話を伺うと、リテーナーの重要性を十分に説明されないまま治療を終えていた、あるいは説明はあったものの「そこまで大事だとは思っていなかった」という方がほとんどです。
再治療には、もう一度、費用と時間がかかります。
最初の治療で終わっていたはずのものを、二度払うことになる。
これが、保定の軽視の代償です。
リテーナーはいつまで着ければよいのですか?
冒頭の質問に戻ります。「いつまで着けるのか」。
まず、当院での保定の進め方をご紹介します。
リテーナーの種類は、大きく3つを使い分けています。
- フィックスタイプ(固定式):歯の裏側に細いワイヤーを接着する方式
- マウスピース型:透明な取り外し式
- プレートタイプ:樹脂の床とワイヤーで保持する取り外し式
どれを選ぶかは、もともとの歯並びと、患者さんの生活スタイルの両方を見て決めています。
たとえば、もともとの叢生(crowding)が激しかった方や、前歯の捻転(ねじれ)が強かった方は後戻りのリスクが高いため、フィックスタイプを選択することが多いです。
取り外し式の自己管理が負担になりそうな方には固定式を、
夜間の歯ぎしりが強い方には歯の保護も兼ねてマウスピース型を——という具合に、性格や習癖まで含めて判断します。
装着時間は、治療直後の一定期間は食事・歯磨き以外の終日装着をお願いし、歯の安定に応じて夜間中心へ移行していきます(移行の時期は歯の状態によって個人差があります)。
保定チェックの通院は、3〜6ヶ月ごと。
期間の目安は2年、または矯正治療にかかった期間と同程度です。
それ以降の通院は必須ではありませんが、私は夜間装着の長期継続をお勧めしています。イメージは「細く、長く」です。
なお当院では、保定期間をいったん卒業された後も、リテーナーの再製作などのアフターフォローを行っています。
一つだけ、先にお伝えしておきたい考え方があります。
歯は、矯正治療の有無にかかわらず、年齢とともに少しずつ動くものです。これは矯正をしていない方の歯並びが年々変化していくことからも分かります。
だからこそ、「いつまで」の答えは「◯年で完全に終了」と言い切れるものではなく、治療結果を長く保ちたいなら、リテーナーとは長く付き合っていくのが基本方針になります。
眼鏡やコンタクトレンズと同じで、生活の一部になってしまえば、負担はほとんど感じなくなる方が多いです。
後戻りの原因は、リテーナーだけではありません
ここまでリテーナーの話をしてきましたが、実は、リテーナーを真面目に使っていても後戻りしやすいケースがあります。
それは、歯並びが悪くなった原因を残したまま治療を終えたケースです。
前回の記事でお話しした、過蓋咬合を残したまま下の前歯だけを並べる部分矯正が、まさにこの構造でした。
原因である「深い噛み合わせ」が残っている以上、並べた歯には元と同じ力がかかり続けます。
(詳しくは「下の前歯のガタガタだけ治したい」が難しい理由をご覧ください。)
つまり、後戻りしにくい歯並びかどうかは、治療が終わってからではなく、治療のゴールを設計する段階でかなり決まっているのです。
奥歯がしっかり噛み合い、前歯が適切な距離に収まり、原因が取り除かれたゴール。
そこに歯を運んでから、リテーナーで守る。
この順番が揃って、初めて「戻りにくい歯並び」になります。
ゴール設計の話は、最初の記事「綺麗な出っ歯」を防ぐ矯正のゴールとはで詳しくお話ししています。
院長の所感
矯正治療のご相談では、装置や期間や費用の話に時間が割かれがちで、保定の話は後回しになりやすいと感じています。
ですが、再治療でいらっしゃる患者さんを拝見していると、つくづく思います。
矯正治療の成否は、装置を外した日ではなく、その後の数年で決まる、と。
これから矯正を始める方は、初診相談でぜひ「保定はどうなりますか?」と聞いてみてください。
装置を外した後の話を具体的にしてくれる医院は、治療のゴールとその先まで設計している医院だと思います。
そして、すでに治療を終えていて「最近リテーナーを着けていない」「歯並びが崩れてきた気がする」という方。
後戻りは、進めば進むほど選択肢が狭くなります。逆に、早い段階であれば、対応の選択肢は広く残っています。
気になった今が、一番早いタイミングです。
赤坂矯正歯科 院長 黒岩哲良
よくあるご質問(FAQ)
Q1. リテーナーを数日〜数週間サボってしまいました。もう手遅れですか?
期間や歯の状態によります。リテーナーがまだ無理なく入るのであれば、装着を再開することで維持できる場合があります。入りにくい・痛みを感じる場合は、無理に押し込まず、早めにご相談ください。状態に応じた対応をご提案します。
Q2. リテーナーは夜だけの装着でもよいですか?
保定の段階によります。一般的に、治療直後は装着時間を長く確保し、歯の安定に応じて夜間中心へ移行していきます。自己判断で装着時間を減らすと後戻りのリスクが高くなるため、必ず担当医の指示に沿ってください。
Q3. リテーナーを紛失・破損した場合はどうすればよいですか?
できるだけ早くご連絡ください。リテーナーがない期間が長くなるほど、歯が動いて作り直しの適合が難しくなります。再作製には別途費用がかかります(詳細は当院までお問い合わせください)。
Q4. 他院で矯正した後の後戻りでも、相談できますか?
はい、可能です。他院で治療された方の後戻りのご相談・再矯正のご相談も承っています。現在の状態を拝見し、後戻りの程度と原因、考えられる対応の選択肢をご説明します。
Q5. 後戻りした場合、もう一度最初から全体矯正が必要ですか?
後戻りの程度と原因によります。ごく初期であれば限定的な対応で済む場合もありますが、噛み合わせから崩れている場合は全体的な再治療が必要になることもあります。いずれにしても、精密検査に基づく診断が前提です。
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【治療に関する注意事項】
- 矯正治療の効果・治療期間・費用には個人差があります。記事中の数値はあくまで一例・目安です。
- 矯正治療には、痛みや違和感、歯根吸収、歯肉退縮、う蝕(虫歯)・歯周病リスクの上昇、治療後の後戻りなどのリスク・副作用が生じる場合があります。
- 保定装置(リテーナー)の装着状況によっては、治療後に歯の位置が変化(後戻り)する場合があります。
- 記事中のケース紹介は、特定の治療結果を保証するものではありません。適切な治療方針は精密検査に基づく診断によって決定されます。
- 当院の矯正治療は公的医療保険適用外の自由診療です(顎変形症など一部保険適用となる場合を除く)。
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執筆者紹介
赤坂矯正歯科 院長 黒岩哲良
経歴:日本矯正歯科学会認定医/歯学博士/鶴見大学歯科矯正学講座 非常勤講師
矯正専門の歯科医師として、患者さん一人ひとりに最適な治療を提供することを使命としています。
デジタル矯正技術の導入や、世界中でアップデートされる治療方法の研究を日々行いながら、治療精度を高めています。表側ワイヤー矯正、アンカースクリューを併用したハイブリッドな治療、マウスピース型矯正装置や舌側(裏側/リンガル/ハーフリンガル)矯正装置などを使用する目立たない治療、加速矯正処置も行っており、幅広い症例に対応可能です。
患者さんの健康と審美性を両立させるため、チーム医療の重要性を重視し、各専門家との連携を積極的に行っています。
これからも最新の知識を学び続け、より良い矯正治療を提供できるよう努めてまいります。お気軽にご相談ください。
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