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こんにちは、赤坂矯正歯科 院長の黒岩です。
マウスピースか、ワイヤーか。
その比較で迷っているうちは、まだ何も比べていません。
——「もうすぐ終わります」と言われていた矯正を、東京・港区赤坂の当院でもう一度やり直している患者さんがいます。
矯正専門の歯科医師として13年、15の医院で約1,300人の患者さんを担当してきました。
開業してからの2年間だけでも、約550人の初診相談を受けています。
その中で、何度も出会う患者さんがいます。
「前歯は並んだのに、もう一度矯正することになった」方たちです。
今日はその方たちが治療を始める前に知らなかったこと、つまり矯正治療の「ゴール」の話をします。
これから矯正を始める方にこそ、読んでほしい内容です。
【この記事のポイント】
- 医院によって提案が正反対でも、どちらも「正しい」ことがある——違うのは治療のゴール設定
- 前歯は並んだのに噛み合わせが治っていない状態を、私は「綺麗な出っ歯」と呼んでいる
- 矯正治療のゴールは前歯ではなく、奥歯の噛み合わせ(一歯対二歯咬合)にある
- 上下の前歯には「適切な距離」の目安(オーバージェット・オーバーバイト各2〜3mm程度)がある
- 初診相談では「私の治療のゴールはどこですか?その根拠は?」と質問してほしい
なぜ医院によって矯正治療の提案が正反対になるのでしょうか?
複数の医院で矯正相談を受けると、こういうことが起きます。
A院「マウスピースで治せます。抜歯は不要です」
B院「抜歯してワイヤーで治すのが確実です」
正反対です。
当院の初診相談でも、「2つの医院で全く違うことを言われて、決められなくなりました」という方はとても多いです。
ここで多くの方が、「どちらかの先生が間違っているのでは?」と考えます。
ですが、実はどちらも正しい可能性があります。
なぜか。
設定している治療のゴールが、そもそも違うからです。
当院の初診相談では、まず患者さんの歯並びを拝見して、「どうして今の状態になったのか」を考えるところから始めます。
いわば、患者さんの今までの歯のストーリーを推測するところからです。
そのストーリーの読み方と、どこまで治すかのゴール設定。これが医院によって違えば、提案される装置も抜歯の判断も変わります。
つまり、あなたが比べるべきだったのは「マウスピースかワイヤーか」ではなく、「その先生がどこをゴールにしているか」だったのです。
では、ゴール設定と実際の着地点がずれるとどうなるのか。
実際にあったお話をします。
「綺麗な出っ歯」とは?前歯が並んだのに再矯正になるケース
ケース1:「もうすぐ終わります」と言われていた歯並び
先日、当院に矯正相談で来院された患者さんのお話です。
九州で2年半ほど矯正治療を受けており、担当の先生からは「もう終盤なので、もうすぐ終わります」と説明されていたそうです。
その後、九州から東京へ引っ越すことになり、転院先を紹介してもらったものの、その紹介先の医院が閉院していました。
矯正の医院を一から探すことになり、お家の近くの矯正歯科で相談したところ、当院を紹介していただき来院されました。
前医での装置はマウスピース型矯正装置(インビザライン)。治療期間は2年半です。
拝見して、私が確認したのは次の3点でした。
- 奥歯の噛み合わせが治っておらず、噛み合っていない
- 上下の歯の真ん中(正中線:median line)がずれている
- 歯は並んでいるが、出っ歯が残っている
そして、この状態よりも私が一番気になったのは、「この状態で治療終盤」と判断されていたことです。
どこまで治ったら終了なのか。
その基準、つまりゴールが曖昧なまま治療が進むと、「歯は並んだけれど、噛み合わせは治っていない」という着地が起こり得ます。
見た目には歯が並んでいます。でも出っ歯は残っている。
私はこれを「綺麗な出っ歯」と呼んでいます。
ケース2:3年かけて、リテーナーまで進んだのに
もう一人、別の患者さんのお話です。
裏側矯正(リンガル矯正)で3年間治療をして、リテーナー(保定装置:retainer)を装着するところまで進んだ方でした。(リテーナーの役割と、装着をやめた歯に何が起きるのかは、「矯正後の後戻りはなぜ起きる?」で詳しく解説しています。)
ですが、ご本人が仕上がりに納得がいかず、当院に相談に来院されました。
拝見したところ、上の前歯が大きく内側(舌側:lingual)に倒れていました。
それにより過蓋咬合(deep bite)——噛み合わせが深すぎる状態になっていました。
深すぎる噛み合わせが下の顎を後ろに追いやり、「口が開けづらい」「顎の調子が悪い」というお悩みにつながっていました。
患者さんの「何の装置でもいいから、とにかく治してほしい」というご希望を受けて、私は表側ワイヤー矯正装置を選択しました。
今回は前歯の傾きを治しながら、歯を骨の中へ沈める方向(圧下:intrusion)のコントロールが必要だったため、歯科矯正用アンカースクリューを併用しています。前回の治療では、アンカースクリューは使っていなかったそうです。
歯を沈める・傾きを制御するといった力のコントロールについては、以前書いた解説記事「矯正治療の鍵『抵抗中心』とは?」で詳しくお話ししています。
この2つのケースに共通するのは、装置の種類ではありません。
マウスピースと裏側ワイヤー。装置は全く別です。前医の先生方の判断が誤りだったと断じたいわけでもありません。
共通しているのは、治療のゴールと、実際の着地点がずれていたことです。
では、矯正治療の正しいゴールとはどこにあるのでしょうか。
矯正治療のゴールはなぜ「奥歯」にあるのでしょうか?
初診相談で、私が必ずお話しすることがあります。
前歯にガタつきがあるケースでも、多くの場合、噛み合わせのずれは奥歯から始まっています。
だから、奥歯を調整しないと、前歯は最終的に綺麗になりません。
この話をすると、ほとんどの患者さんが驚かれます。
「奥歯のことなんて、言われたことも考えたこともなかった」と。
それもそのはずです。
歯医者さんに通ったことのある方は多いと思いますが、奥歯の噛み合わせを一本単位で細かく診るのは、矯正歯科医だからです。
ちなみに、奥歯には理想的とされる噛み合わせの形があります。
上の歯1本が、下の歯2本と噛み合う「一歯対二歯咬合」という形です。
これが理想的なかみ合わせの状態です。(正しい噛み合わせ)
かみ合わせが中途半端にズレています。(一つずれた噛み合わせ)
言葉より、この図を見ていただくのが一番早いと思います。
初診相談でこの説明をすると、「説明がすごく分かりやすかった、初めて聞いた」と言っていただくことが多いです。
正直に言うと、初めて聞く話であってはいけないと思っています。
治療を始める前に知っておくべき話だからです。
上の前歯と下の前歯の「適切な距離」とは?
もう一つ、あまり知られていない基準の話をします。
上の前歯と下の前歯のあいだには、適切な距離があります。
- 前後方向の距離:オーバージェット(overjet)
- 縦方向の重なり:オーバーバイト(overbite)
適切な値は、どちらもおおよそ2〜3mmとされています。
前に出すぎても、引っ込みすぎてもいけない。深すぎても、浅すぎてもいけない。
たった数ミリの世界に、正解の範囲があります。
(なお、この数値はあくまで目安です。適切な位置は骨格や奥歯の状態によって一人ひとり異なるので、鏡の前でご自身で測って判断しないでくださいね。)
前歯は「並んでいるか」だけでなく、「上下の距離が合っているか」で見る必要があります。
先ほどのケース2を思い出してください。
前歯は内側に倒れて、一見引っ込んで見える。でも縦の重なりが深すぎる過蓋咬合になり、顎の不調にまでつながっていました。
距離の基準を外れると、影響は見た目だけでなく、顎の動きにも及ぶことがあります。
「前歯が並んだら成功」ではないのです。
奥歯の噛み合わせと、前歯の適切な距離。
この2つが揃って、初めて矯正治療のゴールと呼べる状態になります。
初診相談では何を質問すればよいのでしょうか?
ここまで読んで、こう思った方がいるかもしれません。
「でも、素人の私にゴールの正しさなんて判断できない」
その通りです。レントゲンも検査データもなしに、ご自身で判断することはできません。
ですが、先生を見分けるための質問なら、今日から使えます。
初診相談で、こう聞いてみてください。
「私の治療のゴールはどこですか?その根拠は何ですか?」
経験豊富な先生であれば、あなたの歯並びを見ながら、「この歯をこう動かします。ゴールはここで、チェックポイントは奥歯のこの部分です」と、その場で具体的に答えてくれるはずです。
答えが「綺麗になりますよ」「並びますよ」で終わってしまうなら、もう少し掘り下げて聞いてみてください。
そして、この質問に明快に答えてくれた医院で治療を受けてください。
それが当院でなくても、構いません。
院長の所感
ここまでお話ししてきたのは、すべての人に共通する「ものさし」です。
ただ、そのものさしを当てた先——あなたの奥歯が今どこにあって、どこへ動かすべきか。あなたの前歯の距離は、どれくらいずれているのか。
これだけは、お口の中を拝見しないと、私にも分かりません。
当院では、精密検査のあと、お一人おひとりの治療計画のスライドを作成しています。外部のシミュレーションと何度もやり取りをするため、作成には2週間ほどかけています。その上で、「あなたの歯のストーリーとゴール」をご説明します。
ゴールを言葉にできる先生と治療を始めることが、「綺麗な出っ歯」を避けるもっとも確実な方法のひとつだと、私は考えています。私自身も、日々の初診相談と治療のなかで、ゴールの説明の仕方を今もアップデートし続けています。矯正治療は装置選びではなく、ゴール設計から始まる——このことが少しでも伝われば嬉しいです。
赤坂矯正歯科 院長 黒岩哲良
よくあるご質問(FAQ)
Q1. 他院で矯正治療中ですが、相談だけでも受けられますか?
はい、可能です。転院やセカンドオピニオンのご相談も初診相談で承っています。現在の治療状況や資料(お持ちであれば)を拝見しながら、現状の噛み合わせとゴールについてご説明します。
Q2. 矯正のやり直し(再矯正)はできますか?
多くの場合、可能です。ただし、歯や歯ぐき、骨の状態によって動かせる範囲は異なるため、精密検査での診断が前提となります。再矯正では前回と異なるアプローチ(装置の変更やアンカースクリューの併用など)が必要になる場合があります。
Q3. 「綺麗な出っ歯」かどうか、自分で確認する方法はありますか?
ご自身での正確な判断は難しいです。オーバージェット・オーバーバイトの適切な値は骨格や奥歯の状態によって一人ひとり異なるため、セファログラム(頭部X線規格写真)などの精密検査に基づく診断が必要です。気になる場合は初診相談でご確認ください。
Q4. マウスピース矯正では噛み合わせは治せないのですか?
そうではありません。問題は装置ではなく、ゴール設定と治療管理にあります。マウスピース型矯正装置でも、適切な診断とゴール設定のもとであれば噛み合わせの改善が期待できます。ただし症例によって適した装置は異なるため、診断に基づいた選択が重要です。
Q5. 治療のゴールはいつ、どのように説明してもらえますか?
当院では精密検査の後、お一人おひとりの治療計画スライドを作成し(作成に2週間ほどいただいています)、歯の移動のゴールとその根拠をご説明します。初診相談の段階でも、現状の見立てと考えられる方向性をお話しします。
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【治療に関する注意事項】
- 矯正治療の効果・治療期間・費用には個人差があります。記事中の治療期間・数値はあくまで一例・目安です。
- 矯正治療には、痛みや違和感、歯根吸収、歯肉退縮、う蝕(虫歯)・歯周病リスクの上昇、治療後の後戻りなどのリスク・副作用が生じる場合があります。
- 歯科矯正用アンカースクリューの使用には、脱落・周囲の炎症などのリスクがあります。適応は診断により判断します。
- 記事中のケース紹介は、特定の治療結果を保証するものではありません。適切な治療方針は精密検査に基づく診断によって決定されます。
- 当院の矯正治療は公的医療保険適用外の自由診療です(顎変形症など一部保険適用となる場合を除く)。
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専門的な診断とわかりやすい説明で、不安や疑問を一つひとつ丁寧に解消いたします。
執筆者紹介
赤坂矯正歯科 院長 黒岩哲良
経歴:日本矯正歯科学会認定医/歯学博士/鶴見大学歯科矯正学講座 非常勤講師
矯正専門の歯科医師として、患者さん一人ひとりに最適な治療を提供することを使命としています。
デジタル矯正技術の導入や、世界中でアップデートされる治療方法の研究を日々行いながら、治療精度を高めています。表側ワイヤー矯正、アンカースクリューを併用したハイブリッドな治療、マウスピース型矯正装置や舌側(裏側/リンガル/ハーフリンガル)矯正装置などを使用する目立たない治療、加速矯正処置も行っており、幅広い症例に対応可能です。
患者さんの健康と審美性を両立させるため、チーム医療の重要性を重視し、各専門家との連携を積極的に行っています。
これからも最新の知識を学び続け、より良い矯正治療を提供できるよう努めてまいります。お気軽にご相談ください。
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