こんにちは、赤坂矯正歯科 院長の黒岩です。
「矯正をするなら親知らずは抜いたほうがいいですか?」
「奥歯を失ったのですが、親知らずを代わりに使えると聞きました」
東京・港区赤坂の当院にも、親知らずと矯正治療の関係について、こうしたご相談が数多く寄せられます(ここ最近非常に増えており、体感ですが週に1-2人以上は親知らずの矯正相談をされています)。
実は親知らずは「抜く」「残す」「活用する」という3つの選択肢があり、どれが最適かは一人ひとりのお口の状態によって変わります。
この記事では、日本矯正歯科学会 認定医の立場から、その判断の考え方を整理してお伝えします。
【この記事のポイント】
- 親知らず(第三大臼歯)には、矯正の視点で「抜く・残す・活用する」の3つの選択肢がある
- スペース不足や後戻りのリスクがある場合は、抜歯を選択することがある
- 奥歯(6番・7番)を失ったケースでは、親知らずを前方へ動かして活用できる場合がある
- 親知らずを動かす矯正は難易度が高く、アンカースクリューの併用やアップライトなどの技術を要する
- 抜くか残すかの判断は、セファロ・CTなどの精密検査にもとづき、認定医が診断することが大切
親知らずは矯正のとき、抜いたほうがいいの?
まず結論からお伝えすると、「矯正だから親知らずは必ず抜く」というルールはありません。
抜くべきかどうかは、親知らずがお口の中でどんな状態にあり、矯正のゴールにどう影響するかによって決まります。
親知らずは、正式には第三大臼歯(だいさんだいきゅうし)と呼ばれる、いちばん奥に生える永久歯です。
現代人はあごが小さくなる傾向があり、親知らずがまっすぐ生えきるスペースが足りず、斜めや横向きに埋まったままになっていることが少なくありません。
この「生えるスペースがあるか」「まわりの歯に悪影響を与えていないか」が、抜歯を考える最初の分かれ道になります。
矯正治療の視点では、親知らずを次の3つのいずれかとして扱います。
- 抜く(便宜抜歯・予防的抜歯):スペースを確保したい、あるいは将来のトラブルを避けたいとき
- 残す(経過観察):きちんと生えていて悪影響がなく、噛み合わせに参加しているとき
- 活用する(矯正移動):失った奥歯の代わりに、親知らずを前へ動かして使うとき
どれが向いているかは、レントゲンやCTで親知らずの位置・向き・根の形を確認し、全体の噛み合わせと合わせて総合的に判断します。
矯正で親知らずを抜くのは、どんなケース?
矯正治療にあたって親知らずの抜歯を検討するのは、主に次のような場合です。いずれも「効果には個人差があり、必ずしも全員に当てはまるものではない」という前提でお読みください。
並べるスペースが足りないとき
歯を並べるにはスペースが必要です。
親知らずが手前の歯を押していたり、奥のスペースを占領していたりすると、矯正の妨げになることがあります。こうしたケースでは、親知らずを抜いてスペースをつくることを検討します。
矯正後の「後戻り」を避けたいとき
斜めに埋まった親知らずが手前の歯を押し続けると、せっかく並べた歯並びが後戻り(あともどり)する一因になると考えられています。
将来の安定を優先し、あらかじめ抜歯をおすすめする場合があります。
後戻りそのものの仕組みについては、当院の別記事でも詳しく解説しています。
むし歯・歯周トラブルのリスクが高いとき
横向きや半分埋まった親知らずは歯みがきが届きにくく、手前の歯まで巻き込んでむし歯や歯ぐきの炎症を起こしやすい傾向があります。清掃性やお口全体の健康を考えて、抜歯を選ぶことがあります。
一方で、抜歯には腫れや痛み、まれに神経・血管への影響といったリスク・副作用も伴います。
抜くこと自体が目的ではなく、「矯正のゴールと生涯のお口の健康にとってプラスかどうか」を基準に、必要性を見極めることが大切だと私は考えています。
親知らずを「奥歯の代わり」に活用できるのは、どんなとき?
ここが、患者さんに最も驚かれるポイントかもしれません。
失ってしまった奥歯(第一大臼歯=6番、第二大臼歯=7番)の代わりに、親知らずを前へ動かして噛み合わせに参加させるという選択肢が、矯正治療にはあるのです。専門的には大臼歯の近心移動(きんしんいどう)と呼びます。
たとえば、大きなむし歯や歯の破折で6番を抜かざるを得なかったとき。一般的にはインプラントやブリッジで補うことが多いのですが、条件が合えば、奥に眠っている親知らずを矯正で前方へ移動させ、抜けた部分に据えることができる場合があります。
ご自身の天然歯を活かせる点が、この方法の大きな魅力です。
ただし、どなたにでもできるわけではありません。
親知らずが存在すること、根の形や向きがある程度整っていること、動かすための土台となる骨があること、噛み合う相手の歯との関係など、いくつもの条件を満たす必要があります。
適応の見極めや、実際にどう動かすのかといった具体的な流れは、当院の症例解説記事で詳しくお伝えしています。
▶ 関連記事: 親知らずを奥歯の代わりに動かす治療の詳しい解説は「奥歯を抜くので、親知らずを持ってこれますか?」をご覧ください。実際の適応条件・治療の進み方を掘り下げています。
親知らずを残す・動かす矯正は、なぜ難しいの?
親知らずを活用する矯正は魅力的ですが、矯正治療の中でも最も難易度が高いです。
理由は、親知らずがそもそも「動かしにくい場所」にあるからです。
もともと斜めに傾いていることが多い
埋まっている親知らずは、手前に倒れ込むように傾いていることがほとんどです。
これを噛み合わせに使えるようまっすぐ起こす操作をアップライトと呼びます。
傾いた歯を起こしながら前へ運ぶには、力のかけ方を精密にコントロールする必要があります。
大きな歯を奥から前へ動かすには強い固定源がいる
大臼歯は歯の中でも大きく、動かすには相応の力が必要です。
その反作用で手前の歯まで一緒に動いてしまわないよう、アンカースクリュー(歯科矯正用アンカースクリュー)という小さなネジを一時的に骨に固定し、しっかりした「支点」をつくることがあります。
当院ではこうした難症例にも対応しています。
歯を動かす際に「どこを中心に歯が回転・移動するのか」という考え方(抵抗中心)は、こうした大臼歯のコントロールでも重要になります。関心のある方は矯正治療の鍵『抵抗中心』とは?もあわせてご覧ください。
【院長の臨床から】 私はこれまで大学病院で10年以上、また14の歯科医院で矯正治療を担当させて頂き、1,000人を超える患者さんの矯正に携わってきました。その経験から申し上げると、親知らずの活用は「できる・できない」を写真一枚で判断できるものではありません。根の形、骨の厚み、噛み合う歯の状態、そして患者さんが治療にかけられる期間——これらを一つずつ確認して、はじめて現実的な治療計画が描けます。うまく条件が噛み合ったときには、ご自身の歯で奥歯を取り戻せる、非常に価値のある選択肢になると考えています。
親知らずの扱いは、誰がどう判断するの?
ここまで見てきたように、親知らずを「抜く・残す・活用する」の判断は、単純な二択ではありません。
だからこそ、精密な検査にもとづく診断が欠かせません。
当院では、次のような設備・プロセスで親知らずの扱いを見極めています。
- デジタルCT:親知らずの立体的な位置、根の形、神経・血管との距離を確認
- セファロ(頭部X線規格写真):あごの骨格や噛み合わせのバランスを分析
- 口腔内スキャナー(iTero)・3Dシミュレーター:歯の動きや最終的なゴールを可視化
これらの情報を統合し、矯正のゴールと生涯のお口の健康を見据えた診断を行います。
「他院で親知らずは抜くしかないと言われた」「奥歯を失ったがインプラント以外の道はないか」といったお悩みも、まずは検査で可能性を確かめることをおすすめします。
「他院で親知らずの矯正は難しい」と言われた方も相談できるの?
最近とくに増えているのが、次のようなご相談です。親知らずの前方移動は難易度が高く、対応している医院が限られるため、こうしたケースが当院に集まってきているのだと感じています。
- 過去に矯正治療を受けたが、親知らずはそのままになっている方:当時は親知らずの活用まで踏み込まず、経過観察のままになっているケースです。改めて動かせる可能性があるか、検査で確認できます。
- 現在ほかの医院で部分矯正などを受けている方:通院中の治療は続けながら、難易度の高い親知らずの移動部分だけを当院が担当する、という連携の形もあります。
いずれの場合も、他院を批判する意図はまったくありません。親知らずの移動は条件がそろわないと難しく、あえて手をつけない判断も十分にあり得るからです。そのうえで「やはり自分の歯で奥歯を残したい」という方には、セカンドオピニオンとして、あるいは親知らずの部分だけのご相談として、お力になれることがあります。他院に通院中の方もお気軽にご相談ください(適応には個人差があります)。
よくあるご質問(FAQ)
矯正をするなら、親知らずは必ず抜かないといけませんか?
いいえ、必ずしも抜く必要はありません。
まっすぐ生えていて悪影響がなく、噛み合わせに参加している親知らずは、そのまま残す場合もあります。
抜くかどうかは、レントゲンやCTで位置・向きを確認し、矯正のゴールへの影響を踏まえて判断します。結果には個人差があります。
奥歯を抜いた場所に、本当に親知らずを移動できるのですか?
条件が合えば可能な場合があります。
親知らずが存在し、根の形や向き、周囲の骨の状態などが適していることが前提です。
すべての方に適応できるわけではないため、まずは精密検査で可能性を確認します。
詳しくは関連記事「奥歯を抜くので、親知らずを持ってこれますか?」をご覧ください。
親知らずを動かす矯正は、期間が長くかかりますか?
大臼歯を奥から前へ動かす治療は、通常の歯の移動より時間がかかる傾向があります。
傾いた歯を起こす操作(アップライト)や固定源の準備も必要になるためです。
期間には個人差があり、精密検査のうえで見通しをお伝えします。
親知らずを抜くとき、痛みや腫れはありますか?
抜歯の後には、腫れや痛みが生じることがあります。
程度には個人差があり、埋まり方によっても変わります。
事前にリスク・副作用をご説明したうえで進めますので、ご不安な点は遠慮なくご相談ください。
親知らずの活用とインプラントは、どちらがよいのでしょうか?
どちらが適しているかは、お口の状態やご希望によって異なります。
ご自身の天然歯を活かせる点は親知らず活用の利点ですが、適応には条件があります。
インプラントを含めた複数の選択肢を比較しながら、担当医とご相談いただくことをおすすめします。
以前に矯正をしましたが、親知らずはそのままです。今から動かせますか?
状態によっては可能な場合があります。
以前の矯正で親知らずが活用されていないケースでも、親知らずが残っていて条件が合えば、改めて前方への移動を検討できることがあります。
まずはレントゲン・CTでの確認をおすすめします。結果には個人差があります。
他院で矯正中ですが、親知らずの部分だけ相談できますか?
はい、ご相談いただけます。
通院中の治療を続けながら、難易度の高い親知らずの移動部分について診させていただくことも可能です。
まずは現在の状況をお聞かせください。
相談だけでも受けられますか?
はい、初診相談を承っております。東京・港区赤坂の当院では、完全個室で検査結果をもとにご説明します。親知らずを抜くべきか、活用できるかといったご相談も歓迎しております。
関連ページのご案内
親知らずと矯正について、さらに詳しく知りたい方は以下もあわせてご覧ください。
- 奥歯を抜くので、親知らずを持ってこれますか?(前方移動・活用の詳しい解説)
- 矯正治療の鍵『抵抗中心』とは?|歯を動かす仕組み
- 初診相談のご案内
- 矯正治療の費用について
- 院長紹介(日本矯正歯科学会 認定医・歯学博士)
東京・港区赤坂エリアで矯正治療をご検討の方は、ぜひお気軽にご相談ください。
【治療に関する注意事項】
本記事は矯正治療に関する一般的な情報提供を目的としたものです。治療効果・期間・費用には個人差があり、すべての方に同じ結果を保証するものではありません。親知らずの抜歯・移動を含む矯正治療には、痛み・腫れ・後戻り・歯根吸収など、症例に応じたリスク・副作用が生じる可能性があります。適応の可否は精密検査にもとづく診断が必要です。治療方針は担当医と十分にご相談のうえ、ご自身の状態に合わせてご判断ください。マウスピース型矯正装置の一部は、国内で薬機法上の承認を受けていない医療機器を用いる場合があり、その際は個人輸入により入手しています。




